1.

バーバラはネグリル以外の地を知らないで今日まで育った。東洋人を見ることも、ほとんどなかった。ジャマイカにも中国人はいる。だが、この西部には少ないようだ。彼女は、最初ぼくたちのまっ直ぐな黒い髪の毛にとても興味を示し何度も、不思議そうに髪の毛をさわった。ババイは彼女のボーイ・フレンドで23歳だった。ジャマイカの青年の多くがそうであるように、彼も長いドレッド・ヘアを大きな帽子で隠している。蠅のようにちぢれた髪の毛を誇りにしていた。

その夜、ビーチは暗かった。昼間の圧倒的な輝きが去ると、海岸は漆黒の闇のなかに沈んでしまう。その差が、あまりにも激しすぎて、夜のジャマイカは少し憂鬱だと思った。しかし、間もなく月は昇るはずだ。ぼくたちは、遅い夜食をとるために、1マイルほど先のレストランをめざして砂浜を歩いている。バーバラの黒い肌が闇に溶けてはっきり見えない。ただ、彼女が笑うと、その大きくて美しい白い歯が暗闇に浮ぶ。それは、突然、ポカッと浮ぶのだ。

やがて、ネグリルのビーチにも月が昇った。それは丸い澄んだ月だった。そのときである、海に異変が起きたのだ。暗い表情で沈んでいた海が、月光に応えてコバルト・ブルーに輝いた。風景は生気を取り戻した。海の復活に誘われたように、大きな純白の蟹がいくつも砂浜に現れる。ゼンマイ仕掛のからくり舞台が、突然、動き出したようなものだ。すべての鍵は、月に握られていた。


SUNTRY SPRIT. 2 より




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